讃岐うどん巡り体験コラム:005

讃岐うどん巡り体験コラム:005

ネギと讃岐うどん

セルフ店や製麺所など、香川のうどん店の多くでねぎ・天かすなどの薬味を自分で盛るシステムになってます。
「薬味のねぎがない(切らしてる)で」と客に指摘された大将が「裏の畑で取ってこい」と言ったという話が伝説となり、
香川のうどん店さんは面白いらしいとうどんブームに一役買ったのはファンの間では有名。
真偽のほどは定かではありませんが(というよりその大将は無口でほとんど喋らないので多分に疑わしい)、その店は今でも超人気店のひとつです。
そこでは「サービス精神」ゆえか、客が自分でねぎをまな板できざめるようになってますので興味のある方はチャレンジを。
他にも変わったところでは、ねぎを客がはさみで切って薬味にする店(赤坂製麺所・日の出製麺所他)もあります。

そんなネギですが、安い讃岐うどんの原価に閉める割合は結構バカになりません。
中国産の輸入がストップして価格が高騰した頃には、店側が盛るように変えたところや「ねぎはスプーン2杯まで」と限定する店もでました。
県外の人間にとっては「うどんの丼に浮いてる」程度の認識しかないネギも香川ではとても重要な存在なのです。

それは食べる側にとっても言えるようです。
私がうどんそのものをしっかり味わうために、あえてネギを入れないでいると、
地元の人に「ネギ入れないの?変わってるね?」と言われたことがあります。

待たされるの嫌

讃岐うどんの看板でよく目にするキャッチフレーズに「はやい、やすい、うまい」があります。
某うどん店店主曰く「これは地元の客による優先順で、はやければ味は二の次三の次なんや」とのこと。
真偽のほどはともかく地元のお客さんが早さ、即ち注文から出来上がりまでの時間を重視していることは間違いないようです。

とあるセルフ店にて。
注文受付で10人くらいの行列ができていて並びました。
その後ろにやってきた作業着姿のお客さん二人連れ、列をみるなり「他いくか」と帰っていったのです。
満席の行列ではないので待っても数分。
トータルの時間で考えれば他の店に行っても同じなのに。
とにかく待たされるのが嫌なようです。

これは店側も重々承知のうえのようで、
せいろに玉取りした麺がなくなり茹で始めたタイミングで入店すると、
「15分はかかるんやけど…」ととても申し訳なさそうに言ってきます。
そういう時は「構いませんよ。待ってます」と応じつつ内心ガッツポーズしてます。
何を注文しても出来たてのうどんにありつけるのですから。

香川のご当地キャラグッズ

観光地の土産物売場で目にするのがご当地風のキャラクターグッズ。
ハローキティ、キューピー、モンチッチ…色々ありますよね。

香川で見かけたあるストラップ。
お遍路さんの衣装を身にまとっているのですが、そのストラップにかぎってキャラが二個ついています。
なんでかなと台紙を見ると書いてあります「同行ニ人」。
…。

※同行二人…弘法大師が傍についているという意味

メーカーの人わざとなのか素で勘違いしたのか、とても気になります。

讃岐うどんの未来

いま全国46都道府県で「セルフ」の看板が示すのはガソリンスタンドですが、香川では半分以上はうどん店です。

そんな香川のうどん業界ですが、必ずしも安泰ではありません。
というのも

  • コンビニ、ショッピングモールの出現
  • うどん以外の外食産業の発展
  • 次々と出店する大型セルフうどん店

これらの要因から、地元民のライフスタイルの変化や客の一極集中といった現象により苦戦を強いられている既存店は珍しくないのです。
ある店の店主の話によると、ショッピングモールが町内にできたとたん客足ががらっと変わったそう。

ところで去年オープンしたなかのあるうどん店。
廃業したコンビニを改装したものでした。
がんばれ讃岐うどん。

観光(おまけ)

過去60回(滞在100日)以上のうどん巡りで観光もたくさんしました。
そのなかからいくつかピックアップ

・栗林公園
こんぴらさんと並ぶ香川の二大観光名所といえばここ。
高松市の中心にある回遊式大名庭園。
その完成度の高さは一歩一景との異名をとります。
茶室の掬月亭がおすすめ。
喫茶料金が必要(入園セット券あり)のため素通りする人も多いですが、広い部屋でゆったりしながら臨む景色は素晴らしいです。
ちなみに「午前のうどん屋の合計額の方が安かったね」が定番の会話ネタ(笑)。
某テレビ番組で地元出身のゲストが「日本三名園ですから」としきりに自慢してましたがそれは違います。

・瀬戸大橋記念公園
架橋時に開催された瀬戸大橋博の跡地。
博覧会当時の展示品が残っていて、ちょっとした科学館並み。
無料というのがうれしい穴場スポット。
有料の瀬戸大橋タワーは100メートルの高さから360度のパノラマが楽しめます。
ゴトゴトと揺れながら登るのも楽しい。

・玉藻公園 高松駅の近くにある高松城趾。復元の計画もあります。
休日はボランティアガイドもあり。
サッと見てまわるには20分もあれば十分ですが、ガイドの解説ならもっと深く楽しめます。
私もガイドしてもらいました。
とても楽しかったのですが、ゆかりのある人物だという「水戸黄門の助さんのモデルの人物」について語りだしたら延々話が続いて、風の強かったその日は寒さが身にしみました(苦笑

・乃木資料館
善通寺市の陸上自衛隊の敷地にある資料館。
日露戦争で活躍した乃木希典将軍を中心にした戦争の資料を展示してます。
以前は3ヶ月前から書面での予約が必要でしたが、現在は決められた時間帯に行けば気軽に入場できます。
拝観には隊員の方が案内につきます。
とても和やかに接してくれますが、旧日本軍と自衛隊の階級比較の展示ではこんな一幕も。
「自衛隊のトップにあたる防衛大臣は文民ですから、日本軍の中将にあたる幕僚長が自衛隊員の最上位ということになります」
「幕僚長? ああ最近ニュースになりましたよね」
「…」
何気なくスルーされました。

うどん屋がうどん屋を駆逐する(讃岐うどんの現在と未来)

ふたつ上のトピックで「香川のうどん業界が必ずしも安泰ではない」と書きました。5年前のことです。

その要因として3つを挙げていますが、その要因の1つにより最近の開業廃業の動きに大きな様変わりを感じずにはいられません。
それがこれ

  • 次々と出店する大型セルフうどん店

大型セルフという営業形態そのものは古くからありチェーン展開するのも1990年代末期にははじまっています。
ここ最近めだつ出店はそれらとは少し異なるもので、いわゆる讃岐の手打ちうどんとして出されるのが特徴。
部分的に機械を上手にとりいれたり工程をマニュアル化することで、打ち手に比較的それほどの練度を必要としなくても手打ちうどんを出すことを可能としています。
結果として「讃岐では平均点以上のそこそこ美味いうどん」が完成することになります。
原料一括調達によるコストダウンが与える影響も見逃せません。

このようなうどんが大型セルフ特有の「広い駐車場」「清潔な店内」「システム化された注文の流れ」という客側の利便性と相まり、2000年代前半にはこうした形態で成功を収める店が出現しました。
こうした現象の背景として捉えておきたい要素として「そもそも地元香川県人は日常食としては美味いうどんを食べることに頓着していない」というのがあります。
この点自体は改めて別の機会に述べたいと思いますが、色々な店があるという讃岐うどんの多様性にこれまで寄与したきた県民性が現在のこうした現象も成立させているのです。
この成功により「我も続け」とばかり個人・チェーンを問わず開業が相次ぎ、この「そこそこ美味いうどん」が現状讃岐うどん文化の一角をなしたと言っても過言ではありません。

作り手側のこの成功はちょっとした讃岐ドリームとも言えますが、その一方で旧来のうどん店の廃業を加速させている一面ももっています。
需要のパイは大きく変わらない上に、香川県人の食文化を変容させる他の2要素も影響してくるわけですから当然です。
うどん店の開廃業自体は10年以上の流れですし廃業の理由としては打ち手の高齢化や後継者不足という面もありますが、旧来のうどんが伝承されなければ結果として「うどん屋がうどん屋を駆逐する」ことに変わりありません。

美味いうどん、そこそこ美味いうどん、そんなでもないうどん。
味ひとつとっても色々あるのが讃岐うどんであり、そうした色々を包容できるのが讃岐うどん文化の真の素晴らしさだと思います。
旧来のうどん店も生き残っていけるように願ってやみません。(2014年5月11日記)